先日、とは言っても数ヶ月前の話になりますが、イギリスのディープマインド社が開発した人工知能囲碁ソフトであるAlphaGoと、韓国の大棋士イ・セドル九段との5番勝負が行われました。
ニュースでも報道されていたので、囲碁に興味のない方でも耳にされたことはあるのではないかと思います。
僕はニートなので、この5番勝負を全局囲碁将棋チャンネルのライブ放送で見ていました。
囲碁将棋チャンネルのライブ放送の、第2局から第4局までの解説は、シルクプリマドンナの一口馬主でもあった競馬大好き棋士、高尾山こと高尾紳路九段。
高尾先生は、僕が囲碁を始めた頃から平成四天王などと呼ばれており、名人や本因坊のタイトルを獲得するなど、とてもとても強い棋士でした。
もちろん、今現在も第一線で活躍しており、今季の本因坊戦でも厳しいリーグ戦を勝ち抜き、井山裕太7冠への挑戦権を獲得しています。
高尾先生の打つ碁は厚みを生かした手厚い打ち方で、地に辛い私の打ち方と対極にあるように思えます。
高尾先生の碁を並べると、
「地は気にするな。手厚く打てば地は最後に付いてくる」
「ん?手厚く打って勝てなかった?なら私を訴えろ!!」
といったようなメッセージが感じられ、とても勉強になります。
ただ、序盤、中盤、終盤、スキがないと思われた高尾先生でもただ一つ、失礼、ただ一つじゃなかった。頭髪の薄さを除けばただ一つ、欠点がありました。
それは国際棋戦です。
平成に入ってからの日本囲碁界は、中国、韓国に実力面で2馬身、3馬身ほど差を付けられていたとはいえ、日本では鬼のような強さを発揮していた高尾先生が、海外棋士との対局ではなかなか勝利を得ることが出来なかったのは本当にショックでした。
「あの高尾先生でも勝てないのか!」
国際棋戦の結果を見るたびに、ディープインパクトやオルフェーヴルでも勝てないのか、というような、何か絶望的な気分になっていたことを思い出します。
「さぁ来た!さぁ来た!髪の薄い男がヨセて来たぞぉー!日本の高尾紳路だー!」
といった鬼のようなヨセでの追い込みも、国際棋戦では見ることが出来ませんでした。
おっといけない。高尾先生の事を書き始めると止まらなくなってしまいます。
久しぶりに高尾先生の姿を見て、ちょっと見ないうちにハゲ散らかしたなと思い興奮して長々と書いてしまいましたが、今回は高尾先生はどうでもいいのです。
事件は人類代表イ・セドル九段(日本が誇る大棋士高尾先生がこれまで一度も勝てていないすごい人)がアルファ碁相手に1勝3敗で迎えた第5局目で起きます。
最終局ではセドルがまた勝ってくれるだろう!アルファ碁よ!囲碁を舐めるな!期待しながらライブ放送のチャンネルを開きます。
「皆さんこんにちは。本日はアルファ碁対イ・セドル九段の五番勝負、第5局をお送りします。」
聞き手である、高尾先生と同じく頭髪が少し怪しげな囲碁ライターの佐野真さんが挨拶をします。
ここで僕はとんでもない事に気がつきます。
「ん?何で田辺裕信がここにいるんだ!?」
聞き手の隣、解説者の位置にいたのは、JRAジョッキーの田辺裕信でした。
間違いありませんよ。こんなエスパー伊東みたいな顔をした男は、日本全国探しても田辺しかいない!
なぜ田辺がこの歴史的マッチの解説をしているんだ!
第五局が行われたのは3月15日の火曜日。
トレーニングセンターは月曜日が休日であり、休日明けの火曜日も、朝早くから激しく調教を行ったりすることはあまりないそうですから、それならば火曜日に田辺がこの場にいても不思議ではないかもしれない。
もう少し良く観察してみよう。
顔はエスパー伊東に酷似している。間違いない。田辺裕信だ。
発せられるオーラもG1ジョッキーのそれである。主要なタイトルを取ったことがない人にはこのオーラを発することは出来ないはずだ。
年齢はどうだろうか。50歳を少し過ぎているように思える。エスパー伊東は1960年生まれの55歳なので、まず間違いない。この男は田辺裕信だ。
しかしすぐに間違いに気がつきました。
この対局の解説者は、王銘エン九段だったのです。
王銘エン九段は、台湾出身で日本棋院に所属しているプロ棋士であり、日本で最も歴史のあるタイトル、本因坊を二期獲得したこともある偉大な方です。
なぜ台湾出身なのに日本の棋士なんだと思われるかもしれませんが、競馬の〇外のようなものと思ってもらえればいいと思います。
〇外とか言っちゃうと語弊が出そうなので、別の言い方をするならば、チョ・ヨンチョルは国籍は韓国だけど、日本の大宮アルディージャというサッカーチームに所属している。
こんな感じでしょうか。
日本の囲碁界には韓国出身、中国出身、台湾出身の棋士など、海外出身棋士が多くいるのでもう少し詳しい説明をしたいのですが、面倒なので省略します。
そんな王銘エン九段が楽しく、そして分かりやすく解説をしてくれるものですから、久しぶりに自分の中での囲碁熱が高まってしまい、数ヶ月囲碁に夢中になってしまっていました。ちょっと前までは栄冠ナインや競馬に夢中になっていたのにね。
ごめんなさい。
ちょっと見ないうちにハゲ散らかすのが高尾先生。
飽きっぽくて移り気が多く、あれこれ喰い散らかすのが私。
ガハハハハ。こらおもろい。
ん?面白くない?
なら私を訴えろ!!